2016年6月24日金曜日

英語読書会(2016-6)「Jerusalem」(1)



英語読書会報告2016-6

20166月の英語読書会では、
Selma Lagerloef(セルマ・ラーゲルレーヴ)
Jerusalem Book One The IngmarssonsⅠ」を勉強しました。

セルマ・ラーゲルレーヴという名前は、日本ではあまり知られていませんが、彼女の作品「ニルスの不思議な旅(The Wonderful Adventures of Niels)」を知らない人はいないと思います。「Jerusalem」は、スウェーデン女流作家として初のノーベル文学賞受賞のきっかけとなった作品です。

澄み切った夏の朝、露に濡れた草が輝いている中を、一人の若い農夫が馬に犂を引かせて畑を耕している。馬はまるで戯れているように楽しそうに犂を引いている。親から受け継いだこの農場は、家も家畜も使用人たちも十分与えられていて何不自由なく暮らしている。本来ならば意気揚々と仕事に精を出すところだが、このところいまいち気乗りがしない。父や、祖父の代には、どんなことでも彼等が先に立って村人たちをリードしていた。彼等が「さあ、種をまこう」といえば、村人たちは一斉に種まきを開始した。教区の人たちは彼等を教区牧師や寺男に推薦した。いつ川を浚渫したらいいかとか、どこに刑務所を立てたらいいかなど、村人は何かにつけ彼等に指示を仰いだ。今、自分は父親や祖父に負けないくらい、この農場をうまく切り盛りしている。それについては村の誰もが認めている。なのに、自分に相談に来る村人はいない。

これらはすべてこの若者がこの秋に実行しようとしている一つの計画のせいだ。それをやったらもう教会に行っても牧師や判事が握手を求めて来ることはなくなるかもしれないし、貧民救済事業をやったり、教区委員に推薦されることは絶対ありえなくなるだろう。こんなとき父が生きていれば相談に乗ってくれただろうが、今となっては会いに行くすべもない。若者は犂をとる手を休めて空を見上げて、やけになって笑った。するとどうだろう、彼は天国の父のところにいるではないか。

リビングに入っていくと、大勢の農夫達が壁に沿ってベンチに座っていた。皆父に似て、金髪で、眉毛は白く、厚い下唇をしていた。それはまだイングマール家がクリスチャンになるずっと前、まだ異教徒だった昔からのイングマールの一族の者だ。

若者はまず父親と2人だけで話をした。
子:「今、家のほう順調に行ってるんだけど、僕自身の事となると悪いことばかりなんだ。お父さんは神様みたいに賢いと言われていたのに、僕のことはわらしべほどの価値もないらしい。学校の役員にも、町の評議員にも声が掛からない。そういう仕事をする人は、まず自分のことをちゃんと管理できなくちゃいけないんだって。」
父:「そうか、それならまずはいい嫁を見つけて結婚することだ。」
子:「4年前、僕が農場を継いだ時、ベルグスコグのブリタの裁判で証言したことを覚えていますか。ブリタのお父さんは国会議員でした。」
父:「お前は我々の習慣をよく知っている人の中から嫁を選ぶべきだった。」
子:「お父さんのいう通りでした。その頃はそれがわかりませんでした。彼女は、髪は黒くて、目はパッチリ、頬はピンク色で、とても賢い女性だった。ママも喜んでくれたよ。だけど彼女は僕のことを好きじゃなかったみたいだ。きっと父親に言われて仕方なく来たに違いない。」
父:「そんなはずはない。お前みたいな金持ちを夫に持ててうれしくないはずはない。」
子:「それもそうだね、結婚予告も公布されたし、結婚式の日取りも決まっていた。だからブリタは母を手伝いにイングマール農場にやってきた。母も年取ってだいぶ弱ってきたからね。だけどその年は何も育たなかったんだ。じゃがいもは収穫できなかったし牛も病気になってしまった。だから母と僕は結婚式を1年延ばすことにした。結婚予告も出されているんだから延ばしても問題ないだろうと思っていたんだ。だけどそれは古い考えのようだった。」
父:「土地の者だったらそうするのは当たり前だと思っただろうに。」
子:「ブリタは延期するのはいやだといった。それ以来ブリタは日に日に無口になっておかしくなっていった。僕は何が何だかわからなかった。母は、ブリタは身ごもったのだ、だけど、お産が終われば元に戻るといった。ブリタは僕が結婚式を延期したことで悩んでいるのではないかと思ったが、言い出せなかった。ブリタは結婚前に子供を産んで幼児洗礼を受けさせるのが嫌だったんだ。冬が去って春になったが、ブリタは何も変わらなかった。それで、いっそ彼女をあきらめて家に帰そうかと考えた。だけど時はすでに遅かった。3月の初めのある晩、彼女は黙って家を出て行った。夜中みんなで彼女を探したが、朝になってやっと使用人の女が見つけた。」
父:「まさか彼女、自殺したんじゃないだろうね。子供は生まれたのかい。」
子:「子供は彼女の横で死んでいた。僕が彼女と結婚していれば、こんなことにはならなかっただろうに。生まれた子供が僕に喜ばれないならば、いっそ殺してしまったほうがいいと思ったんだ。」
父:「お前はその子供が愛おしかったかい。」
子:「もちろんだよ。」
父:「悪い女とめぐり合わせたものだ。それで彼女は刑務所にいるんだね。」
子:「3年の懲役だ。」
子:「みんなは、ブリタをそんな風にすべきではなかったと言っている。お父さんのように感性のある人だったら、彼女の悩みをもっとちゃんと聞いてあげただろうにと。」
父:「悪い女を理解するのは難しいよ。」
子:「ブリタは悪い女じゃない。誇り高い女性だよ。村の人たちは使用人の口を封じて死産ということにすればよかったのにと言っている。お父さんの時代だったらそうしただろうと。」
父:「そうした場合、お前は彼女と結婚するつもりはあったのかい。」
子:「そうなったらすぐに結婚告知を破棄し、彼女を親の元に送り返したでしょう。彼女は僕といても幸せではないだろうから。」
父:「それがいいだろう。若い者に年寄りと同じ考えを押し付けようとは思わないから。」
子:「教区の人たちは、僕のブリタに対する態度はよくなかったと思っている。」
父:「彼女は善良な人に不名誉を与えた。」
子:「しかし、僕が彼女にそうさせたんだ。彼女を刑務所に送ったのは僕の落ち度だった。」
父:「彼女は自分でそうしたんだ。」
子:「この秋、彼女が刑務所を出るとき僕は何もしなくていいのだろうか。」
父:「何をするというんだい。結婚でもするというのかい。」
子:「それが僕がやるべきことだと思っている。」
父:「彼女を愛しているのかい。」
子:「愛してはいないけど、僕が他の誰かに不幸を招いたとすれば、僕は耐えられない。僕が最後に彼女を見たのは法廷だったが、彼女はその時非常に穏やかだった。子供に対しても穏やかだった。僕に対して荒々しい言葉は決して言わなかった。すべての罪を自分のせいにした。法廷に居合わせた人々は感動して涙を流した。判事さえも涙をこらえていた。この秋、出所しても家に帰されるのはつらいだろう。ベルグスコグの人々は彼女のことを恥だと思っているだろうし、彼女もそのことを思い知らされることになるだろう。そして、彼女は家に閉じこもって、教会にだって行けなくなるし、いろいろ不都合が出てくるだろう。お父さんは、ほかの人が助けを得られないで困っているのをそのまま見過ごすことができますか。この3年、僕は彼女が出てきた時のことを考えると何も手がつかなかった。でも、僕はまだ若い。もし彼女と結婚したら失うものは多いかもしれない。僕は自分の人生はめちゃくちゃになるかもしれない。しかし、僕はお父さんに言いたい。他の農家はみんな所有者が変わってしまったのに、どうしてイングマール農場だけは300年も続いたのか。それは、イングマールが常に神様の道を歩んできたからじゃないだろうか。僕たちイングマールは人を恐れる必要はない、ただ神様の道を歩き続ければいいんだ。」

父は僕をキッチンに残してリビングに帰っていったが、それっきりなかなか戻ってこなかった。何時間待っても戻ってこなかった。
父:「難しい問題だ、もうちょっと待ちなさい。」
そこに座っていた一同はみな一様に目を伏せて黙想していた。

若者は楽しそうに犂を繰っていた。しかし、馬はもう疲れ切ってしまって、朝のような元気はない。畝の端にきたところで、彼は犂を休ませた。そして、真剣な顔つきで独り言を言った。「不思議だな。他の人に助言を仰ぐと、何が正しいのかおのずと解ってくる。3年も悩んでいたことが、助けを求めたとたんに答えが見つかった。これこそ神様のご意思だろう。」彼はこのことを実行しなくてはと思う反面、はたしてそんな勇気が自分にあるだろうかと迷った。「神様助けてください。」

ちょうどその時、ペンキ屋が通りかかって、ペンキ塗りを必要とする家を探していた。あちこち見て回ったがなかなかそういう家は見つからなかった。そして、とうとうイングマールの家を見つけた。「この家は100年もペンキ塗りをしてないようだ。これならきっと秋まで仕事にありつけるだろう。あそこにいる農夫が、この家にペンキ塗りが必要かどうか知っているに違いない。」イングマールは驚いた。「お父さん、あなたはいつも僕が結婚するときには家のペンキを塗り直すんだよと言ってたよね。これは僕に今年結婚しろというメッセージに違いない。」


次回は7月3日(日)14:00~「Book One The Ingmarssons Ⅱ」を読みます。いよいよブリタが刑務所を出る日が近づいてきましたが、彼女とイングマールはどうなるのでしょうか。会の進行は特に当番を決めていませんので、どなたも、いつからでも気軽の参加できます。テキストが入手し難い状況にあり、ご迷惑をおかけしておりますが、こちらで何冊か用意してありますので、ご利用いただけます。また、kindle版、iBook版もご利用いただけます。ページレイアウトがちょっと違うという難点はありますが、辞書機能や、ネット検索機能も利用できますのでなかなか便利と思います。
(Inoue)